抽象表現主義とは?絵の具の「飛び散り」も立派な芸術!ポロックが切り拓いた肉体と感情のキャンバス

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美術館で巨大なキャンバスに絵の具が飛び散った作品を見て、「これなら子供でも描けるんじゃない?」と思ったことはありませんか?

何が描いてあるのかさっぱり分からないし、ただ汚れているだけに見えることもあるかもしれません。

しかし、その「わからなさ」こそが、20世紀のアートを大きく変えた革命の正体なのです。

それが、1940年代後半にニューヨークで生まれた「抽象表現主義」。

ジャクソン・ポロックやマーク・ロスコといった画家たちは、目に見える風景や人物を描くのをやめ、自分の内側にある感情やエネルギーを直接キャンバスにぶつけました。

この記事では、難解に見える抽象表現主義の楽しみ方や、ポロックが発明した驚きの技法について、専門用語を使わずにわかりやすく解説します。

目次

パリからニューヨークへ!アートの歴史が動いた1940年代

それまで、世界のアートの中心はずっとパリでした。

ピカソやマティスといった巨匠たちが活躍し、流行の最先端は常にヨーロッパにあったのです。

しかし、第二次世界大戦がその状況を一変させます。

戦火を逃れた多くの芸術家たちがアメリカへ渡り、そこで若きアメリカの画家たちと化学反応を起こしたことで、美術史の主役が交代する劇的な瞬間が訪れました。

戦争の不安が生んだ「何を描けばいいかわからない」時代

1940年代、世界は戦争の恐怖と大量虐殺の悲劇に覆われていました。

そんな時代に、きれいな花や美しい裸婦像を描くことは、画家たちにとってあまりに空々しく感じられたのです。

「こんな悲惨な世界で、今まで通りの絵なんて描いていられない」

既存の価値観が崩壊する中で、彼らは目に見える現実(具象)を映すことを拒否しました。

キャンバスに描くべき対象を外の世界ではなく、不安や葛藤が渦巻く「自分の内面」へと求めたのです。

シュルレアリスムの「無意識」を取り入れたアメリカの画家たち

ヨーロッパから亡命してきたシュルレアリスム(超現実主義)の画家たちは、アメリカの若手作家に大きなヒントを与えました。

それが「オートマティズム(自動記述)」という手法です。

理性を働かせて計画的に描くのではなく、無意識のままに手を動かして、偶然生まれた形や線の中に真実を見つけようとするやり方です。

ポロックたちはこの考えを取り入れ、頭で考えるよりも先に身体を動かすことで、自分でも予想できない表現を生み出そうとしました。

伝統的な遠近法を捨てて「平面」であることを誇る

ルネサンス以来、西洋絵画はずっと「キャンバスの中に奥行きがあるように見せる(遠近法)」ことを目指してきました。

しかし、抽象表現主義の画家たちは、そのイリュージョン(錯覚)を嘘だと考えました。

「絵画とは、結局のところ平らな布に塗られた絵の具にすぎない」

彼らは画面の奥行きを排除し、キャンバスが平らな表面(平面性)であることを隠さずに強調しました。

この潔さが、新しい時代のアートとして理論的に高く評価されたのです。

「アクション・ペインティング」とは?描く行為そのものがアート

抽象表現主義には大きく分けて2つのスタイルがありますが、その一つが「アクション・ペインティング」です。

名前の通り、描く時の「アクション(行為)」そのものを重要視するスタイルです。

静かに座って描くのではなく、まるで格闘技のように全身を使って描くその姿は、絵画の常識を覆すものでした。

キャンバスを床に置いて全身で挑むポロックのスタイル

代表的な画家ジャクソン・ポロックは、キャンバスをイーゼル(画架)に立てかけるのをやめました。

代わりに、巨大なキャンバスを床に直接広げたのです。

そして、その周りを歩き回り、時には絵の中に入り込んで、四方八方から絵の具を撒き散らしました。

これは、絵画を描くというよりも、巨大な儀式を行っているような光景です。

上も下も関係なく、全方向からアプローチすることで、画面全体に均一なエネルギーを行き渡らせることに成功しました。

完成した絵だけでなく「描いている時間と運動」を感じる

当時の批評家ハロルド・ローゼンバーグは、キャンバスを「闘技場」と呼びました。

画家が素材と格闘し、エネルギーをぶつけ合った痕跡こそが作品であると考えたのです。

完成した絵を見ると、激しく飛び散った絵の具のしぶきや、勢いよく引かれた線のリズムが見て取れます。

鑑賞者は、そこに描かれた「モノ」を見るのではなく、画家がその時どう動いたかという「時間の経過」や「運動の激しさ」を追体験することになります。

偶然の飛び散りに見えて実は計算されているコントロール

ポロックの絵を「ただ絵の具をぶちまけただけ」と思うのは早計です。

彼はポタポタと垂れる絵の具の量や、線の太さ、スピードを身体感覚でコントロールしていました。

無意識に任せつつも、完全に制御不能なわけではなく、意識と無意識のギリギリのバランスで制作していたのです。

実際にやってみると分かりますが、あのようにリズミカルで複雑な網目模様を偶然だけで作るのは不可能です。

ジャクソン・ポロックが発明した「ドリッピング」の凄さ

ポロックが美術史に名を残した最大の理由は、「ドリッピング(Dripping)」や「ポーリング(Pouring)」と呼ばれる技法を発明したからです。

これは筆で描く(ペインティング)という概念を根本から変える革命でした。

なぜこの描き方がそれほど重要だったのか、その革新性に迫ります。

絵筆を画面に触れさせずに描くという常識破りの発明

ドリッピングとは、絵筆や棒にたっぷり絵の具を含ませて、キャンバスの上に垂らす技法です。

重要なのは「道具が画面に直接触れない」ということ。

筆をキャンバスに押し付けて描く従来のタッチ(筆触)とは違い、重力と空気抵抗によって絵の具が画面に着地します。

これにより、画家個人の手癖のようなものが消え、純粋な線と色の軌跡だけが残るようになりました。

上下左右も中心もない「オールオーバー」な画面構成

従来の絵画には、必ず「主役」と「背景」がありました。

肖像画なら顔が中心にあり、風景画なら空と地面の区別があります。

しかし、ポロックの絵には中心がありません。

画面の隅から隅まで、均一な密度で線が埋め尽くされているのです。

これを「オールオーバー(All-over)」と呼びます。

どこを見ても同じ強度のエネルギーが渦巻いており、画面の外側まで無限に広がっていくような感覚を与えます。

筆跡(タッチ)を消して純粋な絵具の物質感を見せる

筆を使わずに垂らされた絵の具は、盛り上がったり、滲んだりと、物質としての存在感を強く主張します。

ポロックは時に、塗料に砂やガラスの破片を混ぜることさえありました。

「何が描いてあるか」という意味から解放された絵の具は、ただそこにある「物質」として、見る人の感覚に直接訴えかけてきます。

それは、見るというより「触れる」感覚に近い鑑賞体験をもたらします。

比較項目従来の絵画アクション・ペインティング
描き方筆を画面につけて描く絵の具を垂らす、投げつける
画面構成中心(主役)と背景がある全体が均一(オールオーバー)
表現対象外部の風景や人物画家の内面、描く行為そのもの

なぜこれが評価される?「子供の落書き」との決定的な違い

「でもやっぱり、何だかよくわからない」

そう感じるのは当然です。

抽象表現主義が評価される理由は、上手い下手という技術的な尺度ではなく、美術の歴史をどう更新したかという点にあるからです。

具象的なモチーフ(リンゴや人)を排除した純粋な感情表現

子供の絵は、大抵「お母さん」や「車」など、何かを描こうとしています。

しかしポロックたちは、そうした具体的なイメージを徹底的に排除しました。

具体的なものが描かれていると、見る人はどうしても「これはリンゴだ」「これは悲しそうな顔だ」と、意味を探してしまいます。

彼らは、言葉や物語に頼らず、色と線だけで人間の根源的な感情を表現しようとしたのです。

巨大なキャンバスが鑑賞者に与える圧倒的な没入感

抽象表現主義の作品の多くは、壁一面を覆うほど巨大です。

画集やスマホの画面で見るのと、実物を見るのとでは、印象が全く異なります。

巨大なキャンバスの前に立つと、視界全体が絵に覆われ、色の中に吸い込まれるような感覚になります。

この身体的な没入感こそが作品の狙いであり、小さな落書きでは決して味わえない体験なのです。

批評家グリーンバーグが絶賛した「絵画の自律性」という理屈

当時、クレメント・グリーンバーグという強力な批評家がいました。

彼は「絵画は、物語や三次元の幻影を捨てて、平面であることを極めるべきだ」と主張しました。

ポロックの絵は、まさにその理想を体現していたのです。

「何に見えるか」ではなく、「絵画としてどう自立しているか」。

この理論的な裏付けがあったからこそ、ポロックは単なる変わり者ではなく、最先端の画家として認められました。

もう一つの潮流「カラーフィールド・ペインティング」を知る

激しいアクション・ペインティングに対し、もう一つの大きな流れが「カラーフィールド・ペインティング(色面絵画)」です。

こちらは静かで、瞑想的。

広大な色の面(フィールド)を見せることで、見る人の心に深く語りかけるスタイルです。

静寂と瞑想へ誘うマーク・ロスコの巨大な色面

このスタイルの代表格が、マーク・ロスコです。

彼の絵は、輪郭のぼやけた長方形の色面が、ふわふわと画面に浮いているような構成が特徴です。

激しさはなく、むしろ深い静けさが漂っています。

ぼんやりとした色の重なりを見つめていると、深い霧の中にいるような、あるいは夕暮れの空を見上げているような、不思議な感覚に陥ります。

「崇高さ」を感じさせるバーネット・ニューマンの垂直線

バーネット・ニューマンは、巨大な単色の画面に、「ジップ」と呼ばれる垂直な線を一本(あるいは数本)引くスタイルで知られます。

「これだけ?」と思うかもしれませんが、人間の背丈を超える巨大な色面を前にすると、その一本の線が強烈な存在感を放ちます。

ニューマンは、これを「崇高さ(Sublime)」の表現だとしました。

大自然や宇宙と対峙した時のような、人間の理解を超えた圧倒的な感覚を表現しようとしたのです。

激しいアクションとは対照的な「色彩への没入」体験

アクション・ペインティングが「画家の運動」を見せるものだとすれば、カラーフィールド・ペインティングは「鑑賞者の体験」を重視するものと言えます。

ロスコは、「私の絵の前で泣く人は、私が描いた時と同じ宗教的体験をしているのだ」と語りました。

彼らは色彩そのものが持つ感情的な力を信じ、見る人を精神的な世界へ連れて行こうとしたのです。

難解な抽象画を楽しむための鑑賞マナーとコツ

抽象画を前にして腕組みをして悩む必要はありません。

もっと自由に、感覚的に楽しむためのちょっとしたコツを紹介します。

これを意識するだけで、美術館での時間がもっと豊かになりますよ。

「何に見えるか」という謎解きを一旦やめてみる

私たちはつい、絵の中に知っている形を探してしまいます。

「雲に見える」「顔に見える」といった連想ゲームも楽しいですが、それでは画家の意図から離れてしまうことがあります。

一度「意味」を探すのをやめて、音楽を聴くように絵を見てみましょう。

歌詞のないインストゥルメンタル曲を聴いて「悲しい感じ」や「激しいリズム」を楽しむのと同じ感覚です。

絵との距離を変えて絵具の厚みやリズムを体感する

まずは遠くから全体を眺めて、色のバランスや迫力を感じてください。

次に、許される範囲で近づいて、絵の具の盛り上がりや、飛び散ったしぶきの痕跡を観察します。

「ここは激しく叩きつけたんだな」「ここは慎重に垂らしたんだな」

画家の呼吸や体の動きを想像しながら見ることで、静止画であるはずの絵が動き出して見えてきます。

自分の感情や記憶とリンクさせて自由に解釈する

抽象画に正解はありません。

その絵を見て「寂しい」と感じても「希望」を感じても、それはあなただけの正解です。

その日の気分によっても見え方は変わるでしょう。

作品を鏡のようにして、自分の心の中を覗き込むようなつもりで向き合ってみてください。

日本国内で本物の抽象表現主義に出会える美術館

「教科書で見たポロック、日本でも見られるの?」

実は、日本には優れたコレクションを持つ美術館がいくつもあります。

海外まで行かなくても、本物の迫力を体感できるスポットへ足を運んでみましょう。

東京・京橋のアーティゾン美術館でポロックの黒い絵を見る

東京駅から徒歩圏内にあるアーティゾン美術館は、ポロックの作品を収蔵しています。

特に『No.2, 1951』のような、黒のエナメル塗料だけで描かれた時期の作品などが見られることがあります(展示状況は要確認)。

新しくなった展示室は空間も広く、抽象画のエネルギーを存分に味わえます。

千葉・佐倉のDIC川村記念美術館で「ロスコ・ルーム」に浸る

千葉県にあるDIC川村記念美術館には、マーク・ロスコの作品だけを展示するために設計された「ロスコ・ルーム」があります。

7点の巨大な壁画シリーズが、多角形の部屋の壁一面を覆っています。

薄暗い照明の中でロスコの赤茶色の絵画に囲まれる体験は、他では味わえない深い瞑想の時間を提供してくれます。

ここを訪れるためだけに千葉へ行く価値がある、特別な場所です。

東京国立近代美術館の常設展でアメリカ美術の流れを追う

皇居の近くにある東京国立近代美術館(MOMAT)も、抽象表現主義を含むアメリカ美術の優品を持っています。

常設展の「MOMATコレクション」では、日本の近代美術だけでなく、海外の作品も定期的に入れ替えて展示されています。

アメリカのアートが日本の画家にどのような影響を与えたか、という視点で見るのも面白いでしょう。

部屋に飾るとおしゃれ!インテリアとしてのアートポスター

本物の作品は数億円から数百億円もするので手が出ませんが、ポスターなら気軽に楽しめます。

実は、抽象表現主義のアートは現代のインテリアと相性が抜群なんです。

部屋の雰囲気を変えたい時、ポロックやロスコを選んでみてはいかがでしょうか。

ミッドセンチュリー家具と相性が抜群な理由

抽象表現主義が流行したのは1950年代前後。

ちょうど家具の世界でも、イームズなどの「ミッドセンチュリーモダン」が全盛期でした。

同じ時代に生まれたもの同士、相性が悪いわけがありません。

木製のシンプルな家具や、少しレトロな雰囲気の部屋に飾ると、驚くほどしっくり馴染みます。

ポロックの複雑な線がモダンな部屋のアクセントになる

ポロックの絵は、一見カオスに見えますが、遠目で見ると均一なパターンになっています。

これが部屋に程よいリズムと複雑さを与えてくれます。

白黒のモノトーンの作品ならシックに、色が飛び散った作品なら部屋の主役として。

シンプルな部屋に一枚飾るだけで、知的なアクセントになります。

ロスコの色面ポスターで部屋に落ち着きと広がりを作る

ロスコのポスターは、大きな色の面が特徴なので、部屋を広く見せる効果があります。

暖色系なら温かみを、寒色系なら静けさを演出できます。

文字情報がない抽象画は、見ていて疲れないので、リビングや寝室などリラックスしたい場所に最適です。

この記事のまとめ

抽象表現主義は、絵画から「物語」を取り去り、純粋な「エネルギー」と「感情」を残したアートです。

一見難しそうですが、理屈を抜きにして全身で感じればいいだけだと思えば、これほど自由な芸術はありません。

最後に、この記事の重要ポイントを振り返ります。

  • 抽象表現主義は1940年代のNYで生まれた、感情を直接表現する運動。
  • ポロックは「ドリッピング」で、描く行為(アクション)をアートにした。
  • 中心のない「オールオーバー」な構図が特徴。
  • ロスコなどの「カラーフィールド」は、色による瞑想的な体験を生む。
  • 鑑賞のコツは「意味」を探さず、距離を変えて「物質感」を楽しむこと。
  • 日本ではDIC川村記念美術館の「ロスコ・ルーム」などが必見。
  • インテリアとしても優秀で、ミッドセンチュリー家具と相性が良い。

今度美術館で巨大な抽象画に出会ったら、ぜひ一歩近づいて、画家の息づかいを感じてみてください。

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